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大阪地方裁判所 昭和42年(手ワ)1310号 判決

原告 松田貞夫

右訴訟代理人弁護士 古川清箕

被告 小沢佐一

右訴訟代理人弁護士 飛沢哲郎

主文

被告は、原告に対し、金一、九三九、〇〇〇円、及び、内金一、五三九、〇〇〇円に対する昭和四一年六月三〇日から、内金四〇〇、〇〇〇円に対する同四二年五月一一日から完済まで、年六分の金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は、仮に執行することができる。

事実

〈全部省略〉

理由

一、原告主張一の事実中、被告が本件約束手形に裏書した事実を除くその余の事実は、すべて被告の自白するところである。

二、本件約束手形になされた被告名義の裏書が、訴外浜本次雄によってなされたことは当事者間に争いがないところ、同訴外人に被告を代理して右裏書をする権限があった事実は、原告の全立証によってもこれを肯認するに足りないところである。

三、原告は、訴外浜本に被告を代理して本件裏書をする権限がなかったとしても、同訴外人は被告の営業たるメリヤス製品製造販売に関する業務全般を委ねられており、原告としては同訴外人に右代理権がなかったことにつき善意であったから、被告は本件裏書につきその責に任ずべきであると主張し、右主張は、商法第四三条の通用があることをいうものと考えられるので、この点について判断する。

訴外浜本が、被告の営業たるメリヤス製造販売業における使用人であったことは当事者間に争いがなく、〈証拠〉を綜合すると、被告は、昭和三九年四月頃から、丸佐毛莫大小商事なる商号を使用して前示営業を開始したが、もともとその本業は米穀薪炭商で、メリヤス類についてはいわゆる素人であったため、メリヤス製造販売(以下単にメリヤス業という。)については、当初からその道に詳しい訴外浜本にその営業一切を一任し(もっとも、手形行為は被告自身が行っていた。)自らは、主として一棟を二戸に仕切った内の一戸にある米穀薪炭商の店舗に居り、他の一戸のメリヤス業の店舗には時々出入りするのみで、原告との間に、同四〇年九月頃、糸、生地等買受の取引を開始するに際しても、原告に対し、「私は金銭面の責任は持つが、仕事の方は浜本が一切やるからよろしく頼む」と挨拶し、その後の取引は一切訴外浜本がこれをしてきたし、代金の支払や手形の交付も、右メリヤス業店舗内に同訴外人が保管していた手提金庫の中からこれを取り出して交付してきたので、原告においては、当然同訴外人に本件裏書をする権限があるものと信じ切っていたことが認められ、右認定に反する前掲証拠の各一部は措信することができず他に右認定を覆えすに足る確証がない。

右認定事実によれば、被告は、その営業の内メリヤス業に関しては、訴外浜本を番頭として使用し、メリヤス業については、手形行為を除いて一切同訴外人に一任していたというべく、この場合、同訴外人に対し番頭なる明示の呼称を付していなかったからといって、右判断を左右し得ないことはいうまでもない。そして、黙示的にもせよ同訴外人を番頭として使用していた被告は、同訴外人がした本件手形の裏書につき、これが制限がなされたことについて善意の第三者たる原告に対し、右制限をもって対抗し得ないことは、商法第四三条第二項、第三八条第三項の規定に照らし明らかなところである。〈以下省略〉。

(裁判官 下出義明)

〈以下省略〉

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